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【リテール広告の未来】リアルとデジタル、棲み分けで最大化を
~寺本高・横浜国立大教授に聞く ㊤

2020.09.01UP

リテール広告の未来はどうあるべきか。流通経済研究所などで長年、スーパーマーケットを中心とした小売業界の研究に取り組んできた寺本高・横浜国立大教授に聞いた。

――スマートフォンの普及で、消費者の行動スタイルが変化しています。小売業界にとって、折込チラシのようなリアルのメディアと、ネットやSNSを中心としたデジタルの情報発信をどのように活用していくべきでしょうか。

高齢者など一定の層には、依然としてチラシが情報源として重宝されている面はあるかと思います。ただ、ネットの普及などで、チラシの役割が今までと変わってきているのも事実です。従来、チラシは牛乳やヨーグルトといった、いわゆる「ロスリーダー商品」と呼ばれる低価格の特売商品を中心に、多数の商品写真と価格を羅列するパターンが一般的でした。ただ、掲載されている商品の販促効果はというと、実は疑問視されている部分も多いのです。

かつて、スーパーの営業企画担当者やメーカーのチェーン営業担当者と議論する機会があったのですが、チラシに商品を掲載することについて、「消費者に訴求することよりも、メーカーと小売店舗との間で、販促の実施を徹底させるための証拠付けが主目的になってしまっている」という話を聞いたことがあります。商品をチラシに載せた以上、店舗はその商品を販促しないわけにはいきませんので。一方で、消費者側にはチラシが情報過多になっている。これでは本末転倒です。

■「注目と関心」に特化

――本当に消費者にとって欲しい情報になっていないということですね。

そうです。私は、本当に消費者にアピールしたい商品だけを載せて、あとはネットやアプリに誘導する方が、役割がはっきりしていいのではないかと思います。小売ではアプリを積極的に導入しているわけですから、やろうと思えばできることです。

2004年に、電通が提示したコミュニケーション・モデル「AISAS」はよく知られています。Attention(注目)、Interest(関心)、Search(情報探索)、Action(行動)、Share(共有)の頭文字をとったものです。ネット社会では、情報に接触して注目し、「面白そうだね」と関心を持ち、それについて具体的な情報をネットで調べ、友達にSNSでシェアするという流れが主流になっています。

これに当てはめると、チラシは「注目」と「関心」を集める目的に加え、「情報探索」をもひっくるめた媒体になってしまっていた。「情報探索」はネットの方に任せて、もっと掲載する商品を絞り、インパクトを与える役割に特化してもいいと考えます。

■受け手にインパクト

――リテールアド・コンソーシアムがホームセンター大手のカインズと実施した調査でも、チラシとネット広告の組み合わせで売上がアップした事例が報告されています。

カインズのフライパンの事例は私も興味深く受け止めました。フライパンの写真がチラシに大きく出ていて、まさしく「注目」と「関心」に特化した好例だと思います。具体的な説明はネットの方でサーチして見ていくという流れに、うまく誘導できている。

よく「受動的メディア」と「能動的メディア」という区別がされますが、チラシやテレビCM、鉄道広告などの受動的メディアには、受け手にインパクトを与える効果が大きい。これに対し、ネットやSNSなどの能動的メディアは、細かい情報を調べていくのに有用です。お互いの強みをうまく組み合わせて効果を最大化することがカギになると思います。

■コロナ禍で寄り添い

――消費者にとって、チラシはある種の情報の入り口です。そこから来店促進や売上アップに結びつける仕掛けが必要だと思いますが、最近の取り組みで注目される事例はありますか。

拓殖大学の名誉教授で、長らく流通経済研究所の理事を務めている根本重之先生の研究報告を拝聴した際、スーパーのサミットのチラシの事例を紹介されていました。「気分だけでも花火大会!」と題して、花火の写真とともに、たこ焼きや枝豆、ビールといった関連商品を載せていたというものです。

コロナ禍の中で、消費者への寄り添いが感じられ、いわば情緒的なコミュニケーションのツールとしてチラシを使っている。お客さんのブログやSNSなどにも上がっていて、かなり話題になっていたようです。店側は、結果的に集客や売上につながればいいというスタンスですが、こういう役割をチラシに求めていくのは非常に面白い取り組みだと感じています。

「気分だけでも花火大会!」と題したサミットのチラシ

私の近著「スーパーマーケットのブランド論」(千倉書房)でも書いていますが、スーパーの業界には企業としての「ブランド」という意識がこれまで希薄でした。安売りで客を集めることに終始して、イノベーティブな取り組みで差別化していこうという発想があまりなかったと思います。今後は、自社のオリジナリティーや強みを生かした商品づくりを進めるとともに、情報発信でも差別化を図ることが求められています。

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寺本 高(てらもと・たかし) 横浜国立大大学院教授。1973年生まれ。慶應義塾大商学部卒。筑波大大学院修了。博士(経営学)。流通経済研究所店頭研究開発室長、明星大経営学部准教授を経て、2020年より現職。著書に「小売視点のブランド・コミュニケーション」「スーパーマーケットのブランド論」(いずれも千倉書房)など。