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「エリア・マーケティングの考え方と近未来戦略」~日本大学商学部・岩田教授㊦
前半では、エリア・マーケティングの歴史と3つのアプローチをお話しました。後半ではコロナ禍におけるデジタル化の変化、エリア・マーケティングの新しい研究について述べます。
3.コロナ禍におけるデジタル化の変化
コロナ禍以前からエリア・マーケティングにおけるデジタル化は進んでいました。
ここ数十年でワンツーワン・マーケティングが日本の企業にも浸透し顧客一人ひとりに向けての情報をさまざまなデータから集約しターゲット一人ひとりにカスタマイズして発信することが行われてきました。ここ数年ではさらに一歩進み、ワンツーワンから発見された情報から顧客をどのように地域ごとにグループ化していくのか、いかに自社の商品構成などに合わせたグループ構成に分類して効率の良いマーケティングを組み立てるのかといったことが注目されています。ワンツーワンからの再構成、データ多層化の解析、商圏の重層化の検討です。顧客の個別化と再統合化が始まっています。ビッグデータ解析が進んできたため企業はデータ分析を多方面から行うことによって他企業との差別化につなげようとしています。
さらに、ステイホームが推奨され消費者が家庭にいる時間も多くなり、実際の店舗で買い物をする機会も減ってきています。そうなるとさらにデジタル化が進む一方で、地域に目を向ける消費者が多くなってきています。
その一つの要因が「歩く」時間も増え、「身の回り」への関心が高まっていることです。デジタル化と地域の環境に目をこらすことの両立化が平行して行われてきています。地域や自分の周辺環境に視点を向ける消費者が増加しています。
4.情報戦略の変化 図表4
消費者は周り(地域)に目を向けてきめの細かい対応を行っている企業に魅力を感じます。自分にとって消費に値する真の商品は何か、自分にとっての心地良い消費環境は何か、の感覚を以前にも増してとても大切にしています。企業はそのような状況下でまず行うべき基本事項は2点です。
一つは多数ある情報源から自社のコンテンツを選択してもらうように魅力ある双方向性の情報を構築すること。二つ目は個別の地域を徹底的に研究してその地域の消費者に必要でかつ旬の情報を提供すること、です。
アプローチ1・2・3の情報戦略
4-1 アプローチ1〔ナショナルから地域へ〕
第1ステップとしては特に個別地域に合わせることを意識せずに、消費者に受け入れられ、企業の意図も伝わる魅力ある情報を作り出すことが重要です。重要なことは、数ある情報源から自社の情報を先ずはいかに選んでいただくのか、という点から魅力ある情報を発信し続ける姿勢を保つことです。
第2ステップとしては地域に合わせた情報発信です。これには企業の支店や営業所の努力が必要です。本社機能がある大都市からの情報把握や情報受発信には限界があります。いかに個別地域の必要かつ旬な情報を取り入れて発信するのかはその地域での現場の力がものを言います。
4-2 アプローチ2〔地域からナショナルへ〕
一つは地域の人々に愛されること、二つ目はメディアに取り上げてもらうパブリシティを大いに活用することです。
地域の人々に愛されることは地域に根をきちんと下ろすということです。先ずは地域との関係をきちんと構築することが基本です。そこからアナログ的な情報(従前からの口コミなどを含めて)も発生しますし、それがデジタル情報にも波及されます。
メディアに取り上げていただくパブリシティも大変重要です。地域の人々に愛される商品であれば地域の人々からの商品・企業情報の発信もありますし、さらにメディアに自社自らパブリシティを働きかける場合にも強みになります。
4-3 アプローチ3〔地域の中へ深く〕
これは主体が地域に存在する流通業で、ターゲットは地域住民です。したがって情報戦略は地域の生活者に寄り添うことが必要となります。地域住民は何を欲していて何を必要としないのか、地域に密着した日常の生活に企業自身が身を置くことに注視しないと地域の消費者は企業の情報には見向きもしません。春夏秋冬、12ヶ月などの季節の区切りや地域の行事(学校の運動会なども含めて)情報の組み立てはアイデアの一案となります。POSデータなどが利用できればそれを最大限利用することも重要ですが、アナログの情報も忘れてはなりません。
5.エリア・マーケティングの新しい視点
最後にエリア・マーケティングの新しい兆候を考えます。現在、地産地消の近未来の展開を研究しています。前述したようにコロナ禍によってさらに地域への視点が注目されている中で、新たな地産地消の動きが出てきています。従来の地産地消は地域で産出されるものを地域で消費するという考え方でした。もちろん現在でもそれが基本ではありますが、実際に購入しているのは、地元の住民だけではなくて、近隣の消費者も含みます。さらにデジタル化によってその範囲が意外なところにまで影響を及ぼしています。地域の資産(商品)をどう構築し、いかに流通させていくのか、さまざまな戦略が繰り広げられています。先ずは誠実な商品を創ること、その後状況に合わせた流通網を築くこと、プロジェクトのリーダーと住民の関係を構築すること、などが必要です。
今日のエリア・マーケティングは基本を守りながらも進化しています。それぞれの企業の立場で再検討の時期に来ているでしょう。
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この論考は拙稿「地域の画一化は進んでいる?進んでいない? 今日的な環境における、エリア・マーケティングを考える」『宣伝会議2019年6月号』宣伝会議、2019、pp.22-25.を基にして加筆修正したものです。
岩田貴子(いわた・たかこ)日本大学商学部教授
1982年慶應義塾大学経済学部卒業、1988年慶應義塾大学大学院商学研究科後期博士課程単位取得退学。2010年日本大学商学部教授。2005年LSE/Research Affiliate、2012年北京外国語大学客員教授を兼任。主な著書に「エリア・マーケティング アーキテクチャー(増補版)」(税務経理協会)など。