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「エリア・マーケティングの考え方と近未来戦略」
~日本大学商学部・岩田教授㊤

 1970年代後半に誕生したエリア・マーケティングはもうすぐ半世紀の歴史を刻もうとしています。前半はまずエリア・マーケティングの歴史や使われ方をお話し、後半ではデジタル時代やコロナ禍でのエリア・マーケティングはどう活用されるかについてご説明したいと思います。

1.エリア・マーケティングの歴史
エリア・マーケティングの萌芽は1950年代と言われており、エリア・マーケティングの先駆者、室井鐵衛と米田清紀によって理論化がなされ実践的な戦略体系も確立してきました。
エリア・マーケティングの概念が世に提示されたのは1977年です。1955年に日本に導入されたマーケティングはマス・マーケティングが主であり、全国を一つのマーケットとして市場を攻略していました。そのマス・マーケティングが1970年代に入り徐々に効果が薄まり、日本の企業は新たなマーケティングを渇望していました。そこで登場したのがエリア・マーケティングです。それから半世紀、デジタル時代にもなりさまざまな展開を持って今日に至っています。

2.エリア・マーケティングとは
エリア・マーケティングは地域を舞台として企業、自治体、消費者がお互いの利益を求めていく概念です。
先ずはエリア・マーケティングとは何かを3つのアプローチで整理します。エリア・マーケティングが誕生した1970年代後半から現在に至るまで考え方の中心にあったのはアプローチ1ですが、アプローチ2やアプローチ3もエリアを考えるにあたって重要な視点です。

アプローチ1〔ナショナルから地域へ〕図表1

全国どの地域でも統一的なマーケティングを行ってきた企業がそれぞれの地域に合わせてマーケティング戦略を対応・変化させる、いわゆる個別地域市場への対応戦略です。全国市場を対象とした中・大都市に本社機能を置く消費財メーカー・サービス業などが主体となります。
高度成長期までは都市部に本社をおく企業は、本社で考えたマーケティング戦略を統一化された方法で、マーケットの大きさに多少合わせさえすれば、同じ戦略の実行でかなりの効果を上げることができました。しかし、マーケットが飽和化し日本全国を同一のマーケティング手法で行っていくことに限界が生じ、そのようなやり方では売上げ、利益、マーケティング効果を上げることが困難になりました。そこで経済的特性(市場特性、消費者特性、競争企業の特性及び競争状況など)、自然的特性、歴史的特性、文化的特性などによって地域の状況を把握し、それに的確に合うような個別地域へ向けてのきめの細かいマーケティング戦略を生み出すことが必要になります。それを個別のマーケティング・マネジメントによって市場性を高め、全体の利益増、シェア・アップにつなげていくのです(注1)。
大手消費財メーカーなどでは、4P(製品戦略、価格戦略、流通戦略、コミュニケーション戦略)を総合的に行うか、あるいは4Pの一部分でエリア・マーケティング戦略が行われることが浸透してきています。

アプローチ2〔地域からナショナルへ〕図表2

地域資産価値を活かしてその地域の商品(特産品など)・サービスを全国市場や海外市場に拡大していく対応戦略です。主には地域市場や限定的な市場を対象としていたメーカー・サービス業などが主体となります。地域開発もこれに含まれます。
地方に基盤をおく企業には、各土地の価値を十分に高めながらのマーケティング活動が重要な課題になります。その土地でしか採れない産品、その土地の地の利を生かした生産方法、その土地の歴史的産物、その土地の文化的背景・自然的条件がなければ存在しない商品など、それぞれの地域の価値を商品化したものを、マーケティング手法を生かしながらどのように市場機会を広げていくかということを検討しなければなりません。各地域が東京や大阪などの大都市で生産され全国販売されているものと同じようなモノ、あるいは同じようなマーケティング戦略で競争する必要性はなく、自分たちの得意とするものを大いに伸ばして差異化を図り、お互いに補完の関係を作り出さなくてはならないということです。それにはまず、地元の消費者に受け入れてもらい、愛顧者になっていただき、根強い地盤を築くことが必要になります。その後それを基盤にして市場を拡大していきます。

アプローチ3〔地域の中へ深く〕図表3

主に流通業が地域市場の中へいかに深く入り込んでいくかへの対応戦略です。主体は地域に存在する流通業で、本社機能が大都市にある場合も地方に本社機能がある場合も両方含まれます。
流通業のエリア・マーケティングは近年、大きな動きを見せています。大規模小売店(イトーヨーカ堂やセブン-イレブン・ジャパン)はビッグデータなどを取り込みながら熱心に行っており、中小小売りは現在、地域対応のきめの細かい戦略が大きな潮流になっています。
これには製品戦略がかなり大きなウエイトを占めます。製品計画、マーチャンダイジングを各地域に合わせて対応をしていかないと、利益は確実には上がらなくなってきています。例えば、コンビニエンス・ストアでは、おにぎりの具と数量の日にちごとの仕入れ、食品スーパーのお惣菜の味付け及び価格と量の設定、総合スーパーの催事の日程とそれに合わせた売り場の構成など、情報を細かく収集しながら月ごと、週単位、曜日別、そして売り場別及び店舗全体の意思疎通を図りながらのマーケティングが計画・実行されなくてはなりません。(後半に続きます)

注:1)米田清紀「エリア・マーケティング」久保村隆祐・荒川祐吉監修『最新商学辞典』同文館、1995、p.19.

この論考は拙稿「地域の画一化は進んでいる?進んでいない?今日的な環境における、エリア・マーケティングを考える」『宣伝会議2019年6月号』宣伝会議、2019、pp.22-25.を基にして加筆修正したものです。

             

岩田 貴子(いわた・たかこ)日本大学商学部教授
1982年慶應義塾大学経済学部卒業、1988年慶應義塾大学大学院商学研究科後期博士課程単位取得退学。2010年日本大学商学部教授。2005年LSE/Research Affiliate、2012年北京外国語大学客員教授を兼任。主な著書に「エリア・マーケティング アーキテクチャー(増補版)」(税務経理協会)など。