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~新聞折込チラシの価値を再評価する~
J-NOAセミナーリポート

隆盛一途のデジタル社会、購読部数の減少が続く新聞業界という環境下で、新聞折込チラシは「オワコン」になってしまったのか――。一般社団法人「日本新聞折込広告業協会(J-NOA)」が9月21日に開いたオンラインセミナーは、近年ささやかれるこの問いに対する答えを探るうえで、多くのヒントが詰まった内容となった。視聴したセミナーの概要をリポートする。

J-NOAは、全国紙、地方紙に向けて折込チラシを制作・納入する全国の新聞折込広告会社で組織している。20回目となった今回のセミナーは、新型コロナウイルス感染症のパンデミック、世界的な原材料高と物価高、ロシアによるウクライナ侵略など国内外の情勢が激変するなかで、広告主の出稿手控え感が強まる折込チラシの価値を再認識し、広告主に訴求する媒体に鍛え直すチャンスをうかがうことが狙いだった。

◆経験則の転換
登壇したのは、タウマーケティングコンサルタンツ株式会社の田中義啓代表取締役だ。田中氏は、コンサルタントとして長年、自動車メーカーや食品メーカー、小売チェーン、広告会社などを顧客に、ネット直販、サービス開発、商品開発などを支援した実績を持つ。リテールアド・コンソーシアムの運営アドバイザーも務める。
「視点を変えると未来が変わる 『スマホ社会に共生する折込チラシの価値』」をテーマに講演した田中氏は冒頭、広告業の商慣行(経験則)の思い切った転換が出発点になると、切り出した。独自動車メーカーBMWの営業が実践している例を引き合いに出しながら、①仕入れ値の1・25倍が売価②売上を伸ばすために新規クライアントの開発営業を奨励③新規クライアントの獲得が最大のミッション――など10の経験則を挙げて、「これらはすべて壊した方が良い。別の視点でとらえ直してはどうか」と訴えた。

セミナーで講演するタウマーケティングコンサルタンツ代表取締役の田中氏。折込チラシの可能性と潜在力を強調した

◆特殊な日本の広告業界
次に、日本の広告市場の動向の特殊性を紹介した。電通調査によると、22年の「日本の広告費」は7兆円を超えて過去最高を記録したものの、世界の広告市場が大きな成長軌道にあることから比べれば、この20年、ほぼ横ばいか漸増に過ぎないという現状を指摘した。日本は過去最高を記録したとはいえ、インターネット広告の急伸により、マス4媒体(新聞、雑誌、テレビ、ラジオ)や折込などの従来型広告は減少し続け、限られたパイを「食うか食われるかの構造」で奪い合っている。
成長できない日本の広告の要因として、「国際標準型」と「日本型」のビジネスモデルの差を挙げた。「国際標準型」は、広告媒体は広告主による直接買い付けが基本で、広告会社の主な収入源は各業務・作業における専門家報酬によっている。これに対し、「日本型」は、非ネット系広告媒体料金には「マージン(手数料)」を含む場合が多く、それが広告会社の主要な収入源になっている。田中氏は、これによって、「広告媒体の手数料に依存する『日本型』は、広告業務が複雑化、高度化すればするほど、その負担がコストに跳ね返り、利益確保が難しくなる」と語った。

◆商習慣とビジネスモデルの改善を
こうした構造上の課題を解決するためには、商習慣とビジネスモデルの双方を改善する必要があると述べた。
その視点を折込チラシに当てはめた場合に、田中氏はいくつもの改善策を列挙した。
例えば、「従来の常識、商習慣をあえて否定してみる」として、「小売店では5年ほど前までは、店内の写真撮影は禁止だったが、今や店内にWi-Fiがないのはあり得ない。スマホが販促の中心になるのは当然だ。ネット広告の取引に慣らされたクライアントは折込チラシを使いたくなったとしても買い方が分かりにくい。初めてでも簡単に買えるようにしないと広告媒体として成立しない」と指摘した。
「折込にもクライアント用に気の利いたダッシュボードを用意して、購入前に見積もり、発注、実施確認、精算まで、媒体も制作も印刷もすべてスマホで完結できるようにできないか」などと、広告主に折込チラシをアピールできる取り組みの重要性を強調した。

◆「ローカル」から「グローカル」に
さらに、折込チラシと言えば、狭い特定の商圏の中で、クライアント、生活者、折込広告会社が完結していることからの転換も挙げた。
「ローカル広告からグローカル広告に視点を変える」として、▽地域で売れなくても場所を変えたら売れるのではないか▽嗜好性の高い都市部の需要を地方から掘り起こせないか▽こじゃれた都会の商品を地方で販売できないか。かつての頒布会販売は本当に需要がないのか――と問題提起した。田中氏は「地方は情報を持っているが、買うところがない。通販ですべて満たされるわけではない」と語った。

◆DXは業務やサービスの改善に生かせ
日本でいち早くDX(デジタル・トランスフォーメーション)に着目し、数多くの企業のDX支援にもかかわった田中氏は、DXは広告媒体そのものに活用するのではなく、業務や営業、サービスの改善に役立てるべきだとも指摘した。

 

◆「折込は宝の山」「ネットが主力、チラシでフォロー」
田中氏は、アドバイザーを務める健康食品会社の広告活用の事例から、通販における折込チラシの価値も紹介した。この企業は一時期、新聞広告、折込チラシへの出稿を大幅に削減してネット広告を強化したが、紙媒体をセグメントメディアと位置付けて訴求内容や売り方を見直したうえで再度出稿量を増やしたところ、紙媒体由来の通販売上の効率を以前の2倍以上に改善することができたという。
田中氏は「折込チラシは宝の山だ」と述べながら、高齢化する購読者向けのサービス拡充策を例示した。「広くリーチさせるにはLINE、シニア層にはチラシでフォロー、というように役割を明確にする」「ポイントアプリやポイントカードの代わりに折込チラシを使えないか」。
「折込チラシは、すべての人ではなく、ある特定の人に一番力強く届く媒体であるというふうに割り切る。ネットと折込で狙うターゲットを明確にし、折込広告会社もクライアントからの発注を待っているのではなく、研究を重ねてアイデアをぶつけていく必要がある。紙の未来はまだまだ開けている」。田中氏はこう強調したうえで、広告主、媒体社、広告会社の成長に向けて、広告会社はその機会を拡大していく「オポチュニティー・エンジニア」であるべきだとして、「挑戦を続けてほしい」と講演を締めくくった。
(田中氏が講演で使用したスライド資料はこちらから)

◆非購読者にも一定の訴求力
このほか、セミナーでは、J-NOAに加盟する新聞折込広告会社の幹部も講演し、この会社が22年11月に、新聞の定期購読者約5400人と非購読者約1700人を対象に行ったアンケート結果を紹介した。
物価高騰のさなか、日常の買い物シーンで折込チラシがどのように活用されているかについて、スマホなどの他メディアの活用状況と比較しながら、最適な広告の組み合わせを探ったところ、興味深い結果が浮き彫りになった。
「買い物情報を得るために利用するメディア」(複数回答)として、定期購読者の約9割が「折込チラシ」を挙げた。一方、非購読者は約8割が「店舗の電子チラシ」「店舗やメーカーのウェブサイト」「SNS」などのデジタル媒体を選択しつつ、「折込チラシ」も2割強を占めていて、一定の媒体力を評価する声があった。

◆「折込チラシ」プラスアルファが効果的
定期購読者が選んだメディアを詳細に見ると、「折込チラシ」だけを回答に挙げた人は約4割だったが、「店舗の電子チラシ」など他のメディアを2つ目、3つ目の回答に選んだ人も多く、折込チラシを軸に、デジタル媒体やポスティングなど複数のメディアを併用することが訴求力を高めるとの結果となった。
非購読者では、選ぶ媒体が折込チラシを含めて分散する傾向が見られ、定期購読者同様、複数のメディアを組み合わせるアプローチが効果的だとわかったという。

2時間に及ぶセミナーから見えたことは、冒頭の「オワコン」という問いに対して、前例にとらわれない「視点」と「戦略」を組み合わせれば、はっきり「ノー」と答えられるということだった。