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メディアプランニングの最適な予算配分とは?

広告メディアの横並び比較に関心が集まる中で、広告価値を比較する指標として前回、リーチ後の態度変容を「メディア役割」で比べる動きについてご紹介しました(詳細はこちら)。今回は、「それでは実際に出稿配分をどう考えればよいのか」という疑問にお答えすべく、「メディア役割」の概念を発展させた簡易的な出稿配分方法を、折込広告を題材に検討してみたいと思います。

●出稿配分の基準となる「広告効果」
科学的に広告の出稿配分を考えたいというニーズが高まっています。これまでは担当者の「経験」に依存しがちでしたが、昨今のデジタルトランスフォーメーション(DX)の潮流もあり、こうした経験知をデータ分析で可視化する試みがなされています。多くのサービスが各社から展開され、広告主が実際のデータを用いて配分を行うケースも増えています。
データを用いて広告出稿を最適配分する際の基準は、やはり「広告効果」になります。
前回もお示ししたように(図表1)、広告効果とは、広告を認知させる力「認知力」と広告を見た時に反応を引き起こす力「態度変容力」のかけあわせであると考えています。つまり、広告の認知とそれによる態度変容を最大化させる出稿の組み合わせを数字で導くことが、出稿配分というわけです。

【図表1】広告効果のとらえ方

●出稿配分分析の実際
では、出稿配分は具体的にどのように実施するのでしょうか。
必要なのは、各広告キャンペーンの認知と態度変容結果のデータです。広告を実施するごとに調査を実施し、その広告の認知とそれによって得られた態度変容(例えば「購入意向醸成」や「実際の購入経験」など)を取得します。こうしたデータを複数のケースでそろえ、そのデータベースを用いて統計モデルを作成することで一般化します。これにより、予算を上限に態度変容(例えば購入意向)のスコアを最大化する出稿配分を導くことができるというわけです。この方法は実際の出稿結果を一般化するため、精度のよい配分を導くことができます。
ただし、課題もあります。モデルを構築するためには複数の広告キャンペーンの効果を測定したデータセットが必要になる点です。データ作成に時間とコストがかかるため、今すぐに業務に生かすにはハードルがあります。
もう一つの課題としては、出稿実績がある広告メディアしか配分ができないという点です。例えば折込広告を検討したいクライアントが、過去の折込広告の実施経験がなかった場合、広告効果結果が存在しないためそもそも配分を検討できません。
こうした課題から、導入へのハードルを感じるクライアントも存在します。

●簡易的に出稿配分を行う方法
先述の統計モデルの課題を解消すべく、簡易的に出稿配分比を導く分析を研究、開発しました。図表1の概念で各メディアの推計の広告効果を算出し、その大きさを基に配分比を推定するものです。
本来、各メディアの認知力、態度変容力は、広告効果測定調査で得られた実際の効果数値を用いる必要がありますが、その代わりにここでは、生活者データベース ACR/exを用います。認知力は各メディアのリーチ(特定1週間でのリーチ)のスコアを、態度変容力は、各購買プロセス(新情報認知、欲求喚起、詳細検索、購入時影響の4プロセス)でどの情報経路が当てはまるのかを商品カテゴリごとに調査した購買プロセス別情報入手経路のスコアを使用します。この項目の各メディアの認知者別結果を、広告を見た際の態度変容のスコアとして使用します。
こうして調査実施にかかるコストや時間的な負荷を大きく軽減できるだけでなく、未実施の広告メディアの推計効果をバイアスのない一般的な結果として確認できます。

●出稿配分でみる「折込広告」の配分比
では、先述の算出方法で得られた実際の出稿配分結果をみてみます。今回は、テレビ、デジタル広告に加え折込広告の推計効果を算出することで、この3つのメディアの最適な配分比をみました。(図表2)

【図表2】各カテゴリにおける出稿配分比
【図表2】各カテゴリにおける出稿配分比

これは各メディアの推計効果を算出したものです。ACR/exの最新データ(2020年4-6月)から、個人全体(男女12-69歳)をターゲットに「お菓子」「住宅・マンションなどの不動産」の2カテゴリを例に取り上げました。態度変容はカテゴリに合わせ、お菓子は『購入時影響』、住宅・マンションなどの不動産は『詳細検索』を用いました。
認知力、態度変容力の両指標をかけわせることでメディア別の推計効果を算出します。例えばお菓子の折込広告の推計効果(5.02%)は、1週間リーチ25.5%×お菓子購入時影響の情報経路として「折込チラシ」を挙げた率19.7%をかけわせた結果です。同様にほかのメディアでも算出した推計効果を比率比較したものが「配分比」です。お菓子カテゴリの折込広告9.9%という結果は、3メディアの推計効果の和(5.02%+44.01%+1.65%)における折込広告(5.02%)のシェアになります。3メディアすべてで得られる推計効果全体のうち、折込広告はおよそ10%という結果でした。
こうすることにより、クライアントそれぞれの訴求する商品サービスに応じた効果比を、簡易的に算出し、予算配分比に当てはめることで、出稿配分の参考として考えることができます。例えば「住宅・マンションなどの不動産」カテゴリのある広告コミュニケーション施策で予算が1億円であった場合、折込広告にかける予算としては約25%、2,500万円という目安をもつことができます。このように、カテゴリごとにかけるべき予算も変わることがデータで可視化できます。ここでは個人全体(男女12-69歳)のお菓子、住宅情報のカテゴリの例で分析しましたが、ターゲットやカテゴリが変わることで配分比が変わることが過去の事例から明らかになっています。

●さいごに
今回は、統計モデルで構築されることが多い出稿配分を、生活者データを用いて簡易的に実施し、折込広告の出稿配分比を確認しました。コミュニケーション上よく活用されるテレビ、デジタル(スマホ)との比較でみると、今回取り上げたカテゴリではいずれも折込広告がデジタル広告を上回る結果になっています。
お菓子カテゴリにおける購入時影響は、店頭に比較的近いメディアである折込広告が高くなる点は理解しやすい結果です。住宅・マンションなどの不動産カテゴリにおける詳細検索喚起は、検索導線であるオンラインの影響が強いことが予測されましたが、ここでも同様に折込広告の効果が高い点は興味深いといえます。
昨今のコロナ禍により生活スタイルが大きく変化しました。それに伴いメディア接触実態も変化し、それにつれて広告の在り方も変化しています。出稿メディアも、今一度ゼロベースで見直すことが有用なのではないでしょうか。ぜひプランニングの参考にしていただければ幸いです。

寄稿 株式会社ビデオリサーチ
ソリューション室 マーケティングソリューション部 吉田 正寛

株式会社ビデオリサーチ 国内唯一の「テレビ視聴率調査」や、全国47都道府県で主要新聞の閲読状況を測定する「J-READ Basic」をはじめとする各種メディアリサーチのほか、様々な市場調査、世論調査等のマーケティングリサーチを手がける総合リサーチ企業。データ提供から、分析・研究による提言まで、複合的なソリューションを行う。本社・東京都千代田区。