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リテールアドとして活用される折込チラシのカタチ

寄稿 株式会社東急エージェンシー
 シニアプランナー 工藤央幸

 私がリテールアド・コンソーシアム(以下RAC)の立ち上げから参画して早5年が経過しようとしています。主に「折込チラシとネット広告の最適化手法」を探索しているRACで、特に小売業の皆様の広告効果を高めていく手法を開発していくことを主たる目的として、これまで様々な実践検証(RESEARCH | RETAIL AD CONSORTIUM)を行ってきました。しかし、この5年間においてみても、テレビ、ラジオ、雑誌、Webのリテールアドとしての対応は進化しているにもかかわらず、折込チラシは未だオールドメディアの域を出られていないのが現状と言えるでしょう。リテールメディアとして小売業の皆様から支持される折込チラシとして取り組むべきこととは何か?を、RACメンバーの一人として自戒を込めて考察させていただきます。

【序】インターネットを取り込むメディアの進化

 まずWeb広告についてですが、スマホの閲覧履歴や位置情報、また天気や時間帯などによって従来のメディアでは難しかった細かいターゲティングをすることができ、またその効果を数値として測定できる(参照:RACメンバーの千島氏のTOPICS マーケティングの効果測定「3つの手法」を実践 | RETAIL AD CONSORTIUM)ことで、企業にとって非常に使い勝手の良い媒体となっています。その結果として、インターネットの広告費は日本の総広告費の半分を占めるに至り、小売業の皆様においても折込チラシからWeb広告へシフトしたという方々も非常に多いのではないでしょうか。
 この状況を踏まえ、各主要媒体のリテールアドとしての対応の進化を整理していきます。
 テレビは民放の垣根を超えた見逃し配信サービスを提供する形で、世の中に新たなテレビの視聴方法を提示。登録時の顧客情報を活用した性・年齢・居住地・視聴コンテンツ傾向などで細かくターゲティングする動画広告の展開を可能にしました。多くの小売業は小商圏での販促を求めていることが多く、リテールアドの選択肢を広げてくれたと言えます。
 雑誌も同様に、サブスクリプション型のデジタル書籍化にすることで、低迷するリアル雑誌の売上を補填しながら、登録情報を活用したターゲティング広告を可能にしています。
 ラジオは生放送番組にリアルタイムで繋がれるSNSを組み合わせ、視聴者参加型にすることでリスナーをより強いファン化させることに成功しています。数多くのフォロワーを獲得することでそれ自体が媒体となり、またファンとの絆を形にしたリアルイベントを数多く開催し、協賛企業のエリアマーケティングの場を生み出しているという進化を遂げています。
 Web以外の媒体がオールドメディアとして括られてしまうようになっている時代にあっても、それぞれができる形で変化し、リテールアドとしての可能性を見出しています。

【破】求められる折込チラシの進化

 一方、我々が取り組んでいるリテールアドとしての折込チラシという視点で見た場合、折込チラシが他媒体に見られるような進化を遂げているか、と言われればまだまだと言わざるを得ません。RACが「折込チラシとネット広告の最適化手法」を探っていく中で、折込チラシと他媒体を併用して実施することで全体としての広告効率が高まるという結果は複数検証できています。が、残念ながらそれ自体が小売業にとって折込チラシを実施する価値である、と断言できる理由にはなりきれていません。なぜなら折込チラシ自体が広告投資として単一で優れたものであることにはならないからです。
 ここで改めて考えるべきは、【序】章にあるように他の媒体は進化を果たしたということです。言い換えるとそれは、小売業を含め広告販促による集客を求める企業に対応する形へと変化したと言えるでしょう。そのために各媒体みな、多少なりとも痛みを伴う変革であったことは想像に難しくありません。では折込チラシはどうかというと、QRコードを載せる、HP/LPへの遷移を促す、といったデザイン上でのネット対応はしているものの、媒体としては既存の形を維持したままで、できる範囲内で対応するという姿勢になってしまっているのではないか。これが冒頭にある私の自戒の部分に当たるわけです。
しかしその自戒に対しRACとして一筋の光明を見出すことができました。それが昨年4月に三陸鉄道株式会社の協力のもと実施したパノラマチラシになります。

  •  これは、新聞4ページの両面印刷を繋げた計8ページ分にあたる変形の大型パノラマチラシで、表面では美しい海岸線を走る三陸鉄道の魅力と迫力を存分に演出しつつ、裏面では岩手県沿岸地域の特産グルメ通販に誘引するというもので、折込エリアも東京都で実施するという全く新しい挑戦でした。結果として、売上のみならず顧客エンゲージメントの面においても非常に高い効果が確認できました。(折込チラシに新手法、新たな顧客・需要を開拓新聞8ページ分の「パノラマチラシ」を活用~三陸鉄道開業40周年に伴う物販事業に関する広告効果測定調査2024~ | RETAIL AD CONSORTIUM)また、SNSにおいてもインパクトある折込チラシが話題となり、フリマサイトでこのチラシが単体で出品取引されるというWEBでの情報拡散にも寄与できた好事例となりました。
     この試みがうまくいったこと自体はもちろん喜ばしいことですが、やはり改めて気づかされたのは、「企業が求めること」=今回でいえば三陸の魅力訴求と新規顧客開拓、「生活者が求めること」=魅力的と思える情報との出会い、この二つを同時に叶えるように、既存の折込チラシの形から逸脱して「変化」させたことが奏功したということです。

 

【急】折込チラシの未来のカタチ

 この三陸鉄道の事例はあくまでまだ一例に過ぎません。しかしこの「折込チラシをクライアントと生活者のニーズに合わせて変化させる」という姿勢と行動こそ、RACが追及する「折込チラシとネット広告の最適化手法」を実現するために必要なことなのだと確信しています。
 RACの主幹である読売新聞社はもちろん、他新聞社においても、印刷の問題、デザインの問題、販売店の対応問題等々、変化させるにはいくつもの難題が立ちはだかっていると思います。しかし、世の中のあらゆることが現在進行形で変わっている真っ只中の今、折込チラシというメディアにおいても、今ある姿のままで次の時代に適応するというのは恐らく難しい。新聞社の力、企画の力、デザインの力、インターネットの力、広告主の力…様々な力を結集しながら前例のないことにチャレンジしていくことでのみ、新たなカタチを築くことができると考えています。
 現状、折込チラシは間違いなくほとんどの人・企業にとってオールドメディアという認識なのだと思います。ですがRAC、そして私個人としても折込チラシの可能性を信じ、今の時代に適応し進化した、言うならば「“ニュー”オールドメディア」へと価値を高めていきたい。そのために、まだまだその可能性を信じて尽力し続けていく所存です。

  • 株式会社東急エージェンシー
    シニアプランナー 工藤 央幸(くどう・ようこう)
    2002年入社。マーケティングプランナーとして流通・
    不動産・官公省庁・海外観光庁を中心に多種多様な広告・
    プロモーション戦略立案に従事。2010年よりクライアント
    で高まるCRM領域を取り扱う部門としてCRMソリューション
    部を立ち上げ、事業コンサルティング特化型業務を開始。
    データ分析に基づいた流通・商業施設・通販企業の会員育成・
    活性化の戦略立案からクリエイティブプラン、プロモーション
    施策の実施までを一貫して取り仕切るトータルプランナーと
    して現在に至る。現在までに携わった案件は1000を超え、
    特に通販・流通・商業施設に関しての実行性が高い提案力は
    社内ナンバーワンと定評がある。