topics

  • FOLLOW US
  • twitter
  • facebook

AIで進化する店舗のサイネージ広告、属性、効果を可視化

小売店や飲食店内に設置された広告「インストアメディア」への注目度が高まっている。AIカメラ技術の進歩によって映像をリアルタイムに分析し、来店客の属性に合わせた広告表示や視聴率の測定などが自動でできるようになったためだ。インストアメディアの最前線の取り組みについて、6月14~16日に幕張メッセ(千葉市)で開かれた展示会「デジタルサイネージ ジャパン(DSJ)2023」でのセミナーの様子をリポートする。

◆街のインターネット化
「DSJ 2023」は液晶画面などを通じて広告を流すデジタルサイネージの最新動向を伝える展示会。最新技術のほか、デジタルサイネージによる店舗の課題解決策、新たな広告ビジネスの可能性などを幅広く紹介した。
この中で、「AIを活用したインストアメディア最前線」と題して開かれたセミナーには、デジタルサイネージを手がける「クラウドポイント」(東京・渋谷区)の渡辺剛仁ビジネス開発ディビジョン長、IT大手「サイバーエージェント」(東京・渋谷区)の星野泰輔インストア・デジタルエキスパート、AI映像解析サービス「AWL」(東京・千代田区)の古畑翔プロジェクト統括部リーダーの3人が登場。デジタルサイネージにAIを組み合わせた広告ビジネスの現状や課題について議論を交わした。

◆可視化で『カイゼン』
デジタルサイネージは視認性が高く、音声も流せるほか、一つの端末で複数のコンテンツ(内容)を表示でき、紙のポスターのように貼り替えの手間もかからない。
デジタルサイネージの保守サービスを展開するクラウドポイントの渡辺氏は「サイネージ業界は『街のインターネット化』をテーマとしており、今回はAIを活用して、リアルの店舗のサイネージをインターネット化していく取り組みについて紹介したい」と述べ、カメラなどのセンサーやAIとの連携で進化を続けるインストアメディアの現状を説明した。

「クラウドポイント」の渡辺氏

店舗サイネージの配信プラットフォーム「ミライネージ」を提供し、サイネージを使った広告事業で「店舗のメディア化」を進めるのがサイバーエージェントだ。星野氏は「広告を継続的に獲得して収益化していくためには、デジタル広告のように『カイゼン』がポイントになる」と語った。

「サイバーエージェント」の星野氏

具体的な「カイゼン」策としては、
①店舗や時間帯ごとに効果が期待される場所では表示を増やし、期待できないところは表示を減らす
②1商品に対してクリエイティブ(広告動画)を少なくとも3本以上制作する
③効果をデータで可視化する
――の3点を挙げた。
効果が高かったクリエイティブを残し、効果の上がらないものは思い切ってやめるといった「デジタル広告の世界では当たり前の考え方」(星野氏)を導入し、インストアメディアでも広告効果の「カイゼン」を重ねるべきだと強調した。

◆個人情報にも配慮
AWLの古畑氏はAIカメラの技術面を説明した。AWLでは3万~5万円程度のスマートフォン端末などでも動くアプリケーションを開発し、サイバーエージェントの「ミライネージ」にAIカメラの機能を提供している。
AIカメラでは、画像から顧客の性別や年齢を類推するほか、顔の傾きや動きなどで顧客が画面を見ているかどうかを判断。AWLでは高解像度が必要となる顧客の「視線」ではなく、頭の動きで判断することで低コストを実現しており、店舗ごとに異なる環境でも性能を引き出せるよう背景などの環境をいくつかのパターンに分類して、半自動学習でアプリケーションを最適化する技術が強みという。
古畑氏は「POSデータを掛け合わせることで、いろいろな顧客の動きが可視化できる。顧客の顔や動き方が映ったデータは、端末のメモリ上で『35歳くらいの男性が3秒間、視聴した』というテキストデータに変換され、画像そのものはすぐに破棄する設計になっている」と述べ、カメラの利用で課題となる個人情報についても配慮していることを説明した。

「AWL」の古畑氏

司会を務めた渡辺氏は、「インストアメディアはプライバシーにも配慮しながら、サイネージを見ている一人一人の属性に合わせた配信が可能となり、店舗の新しい収益モデルとして加速度的に広がっている」と締めくくった。

電通グループの子会社でネット広告を手掛けるカルタホールディングスなどが行った調査によると、小売店やショッピングモール、飲食店など国内の商業施設・店舗におけるデジタルサイネージの広告の市場規模は2022年で142億円。2026年には3.6倍の512億円規模に拡大すると推計している。

「DSJ 2023」は国内外から67の企業や団体が出展。同時開催の「Interop Tokyo 2023」、「APPS JAPAN(アプリジャパン)2023」、「画像認識 AI Expo (Vision AI Expo) 2023」と合わせて計475の企業・団体が参加し、3日間で11万9108人が訪れた。展示会の講演やサービス・製品などの情報については、7月31日まで、一部をオンラインで公開、配信している。
https://www.dsignage-expo.jp/2023/online/