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オフライン広告の価値と可能性

寄稿 株式会社デジタルホールディングス
グループ戦略部
千島 航太

この20年で、新聞、テレビ、雑誌、ラジオに代表される4大マスメディアによるオフライン広告費が軒並み減少している。これらに代わって成長を続けるのがオンライン広告(インターネット広告)だ。リテールアド(小売広告)はオンラインからオフラインまで幅広いが、今回は新聞折込や屋外・交通広告、DM、POPなどを中心とした、マスメディア以外のオフライン広告(プロモーションメディア広告)が持つ可能性について考察したい。

 

◆インターネット広告はなぜ急成長したか?
私が考える主な要因は以下の3つだ。
①生活者のメディア接触時間の伸長:生活者の可処分時間の中でオンライン接点が急増しているのは自明のことだ。
②小口化とオープン化:マス広告時代とは異なり、インターネット広告は誰もが数千円から手軽に広告出稿できるようになった。実際、現在のインターネット広告市場の成長はロングテール化(※)が牽引している。
③投資対効果の可視化:生活者のオンライン上の行動や購買活動は計測がし易く、商品の購入や問い合わせの件数などを示すCV、
CV1件あたりのコストを指すCPAに代表されるような、売上に直結するわかり易い指標が普及した。

※ロングテール化 主にネットビジネスにおいて、売れ筋である主力商品の売上高よりも、販売数の少ない商品群の売上合計が大きくなる現象。売れ筋商品から販売数の多い順にグラフ化した場合、恐竜の頭のように見える売れ筋商品に対し、「それほど売れない商品群」が、しっぽ(テール)のように長く続くことから名づけられた。安い広告費の広告であっても、広告主の数を増やすことにより、総体としての売上を大きくすることができる。

 

◆3つの観点から見るオフライン広告の現状
次に、前述したインターネット広告急成長の3要因別に、オフライン広告の現状を見ていこう。
① メディア接触時間
例えば、折込広告は新聞購読数が減少傾向のためメディア総接触時間も減少している。一方で、屋外・交通広告は必ずしもメディア接触時間が減少したとは言えないが広告費は減少トレンドにある。このため、メディア接触時間が広告費減少の要因とは言えなさそうだ。屋外・交通広告費の減少はコロナウイルスで通行量が減っていることが原因ではないかとの見方もあろうが、過去20年間、減少トレンドにあることを見ると、直接的な影響ではない可能性が高い。
② 小口化・オープン化
マスメディア以外のオフライン広告は、以前から地場の中小零細企業にも利用されてきた。限られた広告代理店からしか買えず、かつ、数千万円単位の投資が必要になるテレビCMなどに比べると、遥かに広告出稿の敷居は低いためだ。そう考えると、インターネット広告が得意とする小口化・オープン化が、こうしたオフライン広告の減少要因とは言えなさそうだ。
③ 投資対効果の可視化
オフライン広告は、広告主から「投資対効果が見えづらい」との声をよく耳にする。この影響は少なくないと見ている。
広告主にとっては、限られた広告予算を投資対効果が見えやすいインターネット広告に再配分している側面もあるようだ。不況になると特に投資対効果の見えるメディアへ予算シフトするのが世の常である。
一般的に投資対効果を測る手法は、アンケート(パネルリサーチやデプスインタビュー等)、行動ログ(CV計測、購買計測、位置情報や画像解析等)、統計解析(相関分析、重回帰分析等)の3つに大別される。これらを駆使してリテールアド業界は投資効果の見える化に向けて試行錯誤を続けているが、いまだ唯一無二の方法は確立されていないのが実情だ。


プロモーションメディア広告費・・・新聞折込、屋外広告、交通広告、DM、POP他
出展:「日本の広告費(電通)」を参考に作成

◆オフライン広告の価値と可能性
オフライン広告にとって、効果の可視化は重要なテーマであるものの、オフライン広告そのものに価値が乏しければ広告費の減少トレンドを加速させてしまうかもしれない。価値そのものをいかにアップデートするか?本質的にはこれが重要になる。

価値は需給によって決まる。言い方を変えればその「希少性」が価値を生み出す。
オフラインメディア、そしてオフライン広告の価値の一つがその「有限性」だ。
インターネット広告で成長著しい動画広告は、ここ5年で1視聴あたりの単価は半分以下になり価値を下げている。生活者の視聴回数の増加に応じてインターネット広告の在庫が無限に増え続けるためだ。視聴機会の供給が増え続ける中で、需要側である広告主の総予算はほぼGDPと比例して一定であるため、単価が下がっていく構図だ。
だからこそ、インターネット広告と比べて限られたスペースの中に、選び抜かれた情報が掲載される「有限性」「希少性」が、オフラインメディアの価値になる。
(余談ではあるが、私は、ネットで自らを取り上げてくれた記事が出ても特に何もしないが、新聞に記事が載るとつい両親に連絡してしまう。これも有限性=希少価値の一つの証左ではないだろうか)

◆今後の可能性は「人」
近年、SNSやインフルエンサーの台頭を背景に、リテールの現場でも「人」を最大限活用したマーケティング活動に注目が集まっている。
化粧品業界を中心にコロナ渦で手の空いた店舗スタッフをLIVEコマースやWebカウンセリング等に取り組む活動は一般的となった。最近では、店舗スタッフがあえて売れ残り在庫を中心にしてコーディネートして着用することで在庫コントロールにトライするアパレル企業も出始めている。購買計測の仕組みを構築し、店舗スタッフのSNS投稿から売れた商品の売り上げの一定割合をインセンティブとしてスタッフに還元する企業や支援サービスもある。
新聞折込においても、これまでのセール品を押し出すものから、店舗スタッフの顔を掲載したり、お客様の声を掲載したりする野心的な取り組みも増えてきた。ラジオのハガキ職人同様に、自分が投稿した声が「メディアに取り上げられるかも?(しかも有限のスペースに!?)」と関与の期待度が高まるほど、見る側の態度は変わってくる。

メディアの有限性を活かしながら、人を巻き込み、企画や仕組みでその価値を高めていく。今後、リテールアド・コンソーシアムの活動を通じて、これを実証してみたい。

株式会社デジタルホールディングス
グループ戦略部
千島 航太(ちしま・こうた)
2007年オプト(現デジタルホールディングス)入社。モバイル広告セールス、モバイル企画開発部長、コンサルファームへの出向を経て、ホールディングス子会社のグルーバーを創業。代表取締役を務めたのち、オプトと経営統合。21年1月よりオプト執行役員就任。22年4月よりデジタルホールディングスのグループ戦略を担う傍ら、オプトの社外取締役も務める。