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ポストクッキー時代の流通に求められるもの

  • EUが2020年から施行しているGDPR(※1)をはじめ、世界中でクッキーに対する規制が進んでいます。2023年にはグーグルがクロームでのサードパーティークッキー廃止を予定するなど、これまでデジタル広告の成長を押し上げてきたターゲティング広告のあり方が見直され、従来型のマーケティングの実施はますます難しくなります。
    このような環境の変化を受け、企業、特に流通企業にはどのような影響があり、展開が求められるのか。経営戦略やアドテクノロジーに詳しい、デジタルホールディングスの千島航太氏による寄稿です。


    ◆「自律分散」の流れ
    最近、「Web3(ウェブスリー)」なる言葉を多く見かけるようになった。「Web3.0」を表す言葉である。
    インターネット登場後の「Web1.0」の世界は、(通信環境もままならず)限られた人だけが情報をアップでき、大半の人は情報を閲覧するだけの一方通行の世界だった。筆者がネット業界に足を踏み入れた15年前、「Web2.0」ブームが到来していた。ブロードバンドとモバイルの普及によって誰もが情報を発信できるようになった。当時はしきりに「ユーザー発」「インタラクティブ(双方向)」が叫ばれ、個人が主役の時代が来ると期待された。
    ところが、Web2.0の世界でインフラを提供したプラットフォーマー(GAFAなど)が覇者となった。全てのユーザーとデータがGAFAに集まり、ウォールドガーデン(壁に囲まれた庭;プラットフォーマーによる囲い込み)が生まれた。個人が主役の時代を目指した結果として中央集権の世界になってしまったことは何とも皮肉である。
    この中央集権化の反動として、自律分散の世界を創ろうとする大きな潮流がWeb3である。最近巷を賑わせているブロックチェーン(※2)、トークン(※3)、NFT(※4)、DeFi(※5)、DAO(※6)などがキーである。
  • 株式会社デジタルホールディングス
    グループ戦略部
    千島 航太(ちしま・こうた)

    2007年オプト(現デジタルホールディングス)入社。モバイル広告セールス、モバイル企画開発部長、コンサルファームへの出向を経て、ホールディングス子会社のグルーバーを創業。代表取締役を務めたのち、オプトと経営統合。21年1月よりオプト執行役員就任。22年4月よりデジタルホールディングスのグループ戦略を担う傍ら、オプトの社外取締役も務める。



◆顧客との接点 どう広げる
ポストクッキー時代の到来も、同様の流れと捉える。GDPR、CCPA(※7)、改正個人情報保護法など、データプライバシー規制の根底には個人のデータは取得した企業やプラットフォーマーのものではなく「データは個人のもの」とする大きなパラダイムシフトがある。個人のデータを取得、利活用、第三者提供する際には本人の同意を得ることが不可欠になる。「個人への価値提供を通じて、いかに良好な信頼関係を築くか?」がポストクッキー時代におけるマーケティング活動の要諦だ。「D2C(Direct to Consumer)」や「○○ as a Service」化に企業が熱い視線が注ぐ理由もここにある。データを保有する顧客にとっての価値の提供を前提とした直接的かつ持続的な関係づくりである。
こうした世界の流れの中で、ウォルマートの打ち手に流通戦略のヒントが隠されているように思う。数々のD2Cブランドを買収(そして売却)、物流拠点の強化と配送プラットフォーム化(第三者へ外販)、生鮮食品のサブスクリプション型宅配サービス、広告配信プラットフォーム(ウォルマートDSP)、金融サービスの提供など、ウォルマートの打ち手は実に多彩だ。
Amazonへの対抗措置的な側面もあるが、目的は1つに収斂されるように思う。「顧客との多面的・継続的な接点をつくること」である。顧客との多面的な接点を作れるほど顧客は便益を感じ、自身のデータの利活用の期待が高まる。そのデータを基に更なる顧客価値を高めていく。このコンセプトに向けて流通周辺領域から顧客接点を拡張している。

◆新たな金融機能も
ウォルマートのような多面的な投資戦略を1社単独で行うのはヘビーである。そこで紹介したいのが、海外で広がり国内でも規制緩和により徐々に普及し始めている「組み込み金融(エンベデッドファイナンス)」だ。組み込み金融とは、流通小売などの非金融事業者が(金融事業者と連携して)自社サービスに金融機能を組み込むことである。顧客は、1つのサービス内で決済や融資などの金融機能をシームレスに使えたり、高いポイント還元率などのメリットを享受する。事業者は、新たな金融収益や新たな顧客接点が生まれるなどの利点がある。実は、前述したウォルマートの金融サービスも、米大手銀行と連携した組み込み金融で提供している。国内では、家電大手ヤマダホールディングスが「ヤマダNEOBANK」の提供を開始するなど、これから組み込み金融の流れが加速しそうだ。
組み込み金融はあくまで一例だが、法規制や技術変化が次々と生じる今、多面的な顧客接点づくりを目指して、自社だけに閉じない打ち手を模索したい。

※1 GDPR General Data Protection Regulation。EUで2018年5月から適用開始された個人データ保護のルール。違反すると2000万ユーロまたはその事業者の全世界での売上金の4%を上限とする制裁金が科せられる。
※2 ブロックチェーン 複数のコンピューターで取引データの塊(ブロック)を鎖(チェーン)のようにつないで記録する仕組み。障害に強く、データの改ざんが難しいなどの利点がある。ビットコインなどの暗号資産のほか、金融や小売りなどで活用されている。
※3 トークン 従来の通貨の代わりに使う仮想通貨のこと。ネット決済などで使う認証デバイスのことを指すこともある。
※4 NFT Non-Fungible Token。暗号資産にも使われるブロックチェーン技術で、唯一無二であることが認証されたデジタルデータのこと。
※5 DeFi  Decentralized Finance。ブロックチェーン上の金融サービスなどのアプリケーションのこと。日本語では「分散型金融」と呼ばれる。
※6 DAO  Decentralized Autonomous Organization。ブロックチェーン上で管理・運営される組織や意思決定のこと。分散型自律組織。
※7 CCPA カリフォルニア州消費者プライバシー法 (California Consumer Privacy Act)。住民にプライバシーに関連する権利を与え、住民の個人情報を利用する事業者に適正管理の義務を定めている。2020年から施行されている。