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【DXで勝ち残る小売業】良い売り場をスピード共有、現場に競争意識
スーパーやドラッグストアなどの小売業で、デジタルトランスフォーメーション(DX)を活用し、業務の効率化や生産性を高める動きが広がっている。
新潟・群馬両県を地盤に食品スーパーを展開するアクシアルリテイリング(本社・新潟県長岡市)は、グループにシステム開発を手がける子会社を持ち、デジタルを取り入れた売り場づくりや発注システムの導入などにいち早く取り組んできた。
■システムを内製
アクシアルリテイリングは、新潟県を中心とする「原信」「ナルス」、群馬県を中心とする「フレッセイ」の看板で食品スーパー約130店舗を展開。2021年3月期の売上高は前期比6.4%増の2563億円、営業利益は28.0%増の121億円と過去最高を更新した。地方を地盤とする小売りの中でも勢いのある食品スーパーだ。
なかでも他社にない強みが、システム開発などを手がける子会社のアイテック(長岡市・従業員約90人)を持ち、同社が独自開発したソフトを使って売り場のDXに取り組んでいる点だ。外部ベンダーに委託するのに比べ、現場の声をより反映した「現場起点」のシステム構築・改修に取り組みやすいというメリットがある。
■星マークで評価
一例が、「良い売り場」を星印(最高4つ)で採点し、システム上で共有する「成功事例共有システム」だ。青果や総菜の商品陳列の様子など売り場の写真とともに、担当者が工夫した点、エリアマネジャーのコメントなどが盛り込まれ、各店の端末を通じて売り場担当者にリアルタイムで共有される。
「GW後半焼肉単品!」「母の日に向けてラストスパート!」。思い思いのタイトルとともに売り場の写真がずらりと並ぶ。投稿数は週に2000件を超えるなど、常に活発なやり取りが交わされている。
もともと好売り場の共有は週1回の店長会議の場で行われていたが、「スピード感に欠けていた」との問題意識があったという。なんとかシステム上で情報共有できないかと考え、構築したのが現在の仕組みだ。
「良い売り場には『いいね』を付けるなど、現場サイドが面白がって取り組むことで競争意識が出てきた。売り場の『平均点』が上がっていけば、自ずと売り上げやお客様の満足にもつながる」と山岸豊後専務取締役は語る。
良い売り場の事例が蓄積されることでデータベース化され、次なる売り場づくりの参考にもなる。成長の原動力を支える「財産」となっている。
■商品が自己主張を
アクシアルグループでは、広告宣伝に関してはSNSによる発信は行っているものの、いわゆるネット広告は使わず、週2~3回の頻度で新聞折込チラシを実施している。新型コロナの影響で2020年は一時休止した時期もあったが、現在は元通りに再開。チラシの内容は特売商品の羅列から、季節に合わせた料理の提案といった企画中心にシフトしている。
「目玉商品でお客様を呼び込むというより、『トマトフェス』『初夏の味覚』といった四季折々のテーマを打ち出して買い物の楽しさを訴求したい」(山岸専務)という、顧客体験を重視する観点からだ。
メーカーが制作したポスターや販促掲示物などもあまり使わない。山岸専務は「あくまで商品が主役。商品そのものが自己主張する売り場を作りたい」と説明する。そのためには、客が来店するたびに売り場が変化しているような印象を与え、購買意欲を刺激する工夫も不可欠だ。DXによる「良い売り場」の共有化はこうした現場主義を支えることにも一役買っている。
売り場の共有だけではない。統計データとAIを組み合わせた精度の高い需要予測型の自動発注システムも導入している。最終的には人の判断も入るが、85~90%は自動発注でカバーできるという。これにより、店舗のバックヤードに抱えるカートラックの在庫が半分以下に減るなど、業務の効率化につながっている。
アクシアルグループのシステムは、グループ内だけでなく、全国のスーパーマーケットでつくるCGCグループ加盟社を中心に、北海道から沖縄県まで約160社のスーパーやドラッグストアなどの小売企業にも導入が広がっている。
「今後もデジタル化はどんどん進める必要がある」と山岸専務。買い物客向けアプリの利便性向上や決済サービスの導入も視野に入れており、DXをさらなる成長のエンジンにしたい考えだ。