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【リテールアドBPOインタビュー】専門企業グループでリテールの強み最大化~東急エージェンシー・林氏
リテールアド・コンソーシアムは、小売・流通向けの広告・販促業務を支援する「リテールアドBPO」の提供を開始する。サービスの狙いや具体的な方向性について、東急エージェンシーの林誠調査役に聞いた。(聞き手はリテールアド・コンソーシアム事務局)
■「おうち」軸に変化
――新型コロナウイルスの影響によって、リテール業界の広告・販促業務にはどのような変化がみられますか。ポストコロナも見据えた上での分析をお聞かせください。
- たとえば、コロナ禍で一番大きく変化したのが「食」を巡るスタイルだと思います。今まで外食、中食、内食と大きく業態が分かれていましたが、外出自粛に伴い「おうち」がキーワードとなる中で、業態の垣根を越えてお客様にどのように食の体験価値を提供していくかがより重要になりました。外食する機会が減り、テイクアウトが当たり前になっている中で、これまで外で味わっていた体験を中に持ち込むという視点が必要です。これは、外食企業だけでなく、総菜などを扱う中食、内食企業にとっても共通する課題といえるでしょう。「おうちの中の食」という体験価値をどう提供していくか、どう高めていくかという観点で物事を考える必要に迫られています。
私自身、会社帰りに百貨店の「デパ地下」で1~2品の総菜を買い、家の中の食を彩るという工夫を日常の中で取り入れています。外食の頻度は今後数年では元に戻らないでしょう。そうした前提のもとで、食に関わるリテール企業はいかに「おうち基軸」で広告・販促戦略を組み立てるかが大切だと思います。
■店舗の役割、多様に
――広告・販促業務を見た場合、特にリテール業界では店舗にとって必要な施策が多様化・細分化し、本部・地域・店舗間の連携も欠かせません。リテールの現状と課題をどのように捉えていますか。
これは日本だけでなく世界的な流れですが、これからの実店舗の役割は大きく変わっていきます。オンラインも含めた新しい接客様式と、コロナ禍で一気に伸長したEC化(電子商取引)に伴うサービス対応が最重要課題です。
リテールは地域に根ざしたリアル店舗があります。その強みは、①地域の顧客とつながる「コミュニティー機能」②受注・決済・発送・受け渡しの業務全般をこなす「フルフィルメント機能」③店舗内に在庫を持ち配送も手がける「配送センター」機能――です。こうした強みを最大化していくことが大切だと思います。
たとえば、リアル店舗には「単にモノを買う場」だけでない、地域の人たちが集う場という側面があります。また、おうちの食のシーンを想像しながら、実際に商品を手に取って買い物を楽しむこともできます。地域のスーパーなどリアル店舗がECを展開する際は、遠くから取り寄せるより、店舗自体が一つの倉庫のような役割を担うことで、各戸へのスピード配送も可能になるでしょう。
一方、新しい接客様式としては、密を避ける来店予約や遠隔でのビデオ接客、オンライン接客などへの対応を迫られます。ECでは、ネットで注文した商品の店舗受け取りや、「ラストワンマイル」と呼ばれる顧客への最後の配送区間への対応、店舗在庫をしっかり管理していくことなどが重要になってきます。
オフライン・オンラインを含めた顧客情報の統合によるパーソナライズも課題です。リアルかネットかというのは、お客様にとってみれば自分の買い物手段の一つにすぎません。どんなときにリアル店舗で買い、どんなときにネットを活用するのかをお客様起点で把握していかないと、良いプロモーションはできないでしょう。
■コア業務・ノンコア業務を仕分け
――BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング=業務プロセスの外部委託)の必要性についてはどう考えますか。
広告・販促の業務は5年前、10年前と比較しても多岐にわたっています。本来行うべきコア業務と、それ以外のノンコア業務が入り乱れ、担当者が膨大な業務をこなしているのが実情です。マーケティング部門の人的資産はもっと上流の戦略的な業務に集中すべきだと考えます。
そのためには、コア業務・ノンコア業務をしっかりと仕分けし、新たな業務モデルを再定義して、上位にあるコア業務はクライアント側に残し、ノンコア業務は業務委託等も含めて外に出すことが選択肢となります。ここで気を付けなければいけないのは、ただ単に外に投げるのではなく、マーケティング業務のプロセスの高次元化を図り、組織としての競争力を高めるという視点です。
小売・流通業界に限らず、日本企業は一般的に仕事のしかたが属人化している側面があります。リテール企業の場合、年53週の販促プランニングを1週間単位で回しており、常に2、3週先のことを考えながら運用しているのが実情です。戦略的なマーケティングの部分と、日常のオペレーション的な業務を切り分ける必要があります。
――企業を取り巻く環境は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進化によってさまざまに変化しています。小売業はどのようにDXに取り組むべきでしょうか。
- DXはそれ自体が目的ではなく、あくまで手段でしかありません。リテールの特徴であるリアル店舗の強みをいかに最大化するか、エンドユーザーである地域顧客の利便性をいかに高めるかといった目的のためにDXの推進が必要だと考えます。そのためには、自分たちのDXのあるべき姿、ありたい姿をまず描いて、社内の関係部署がしっかりとその姿を共有することが重要です。カギになるのは、社内にデザイン力をもつことです。できることから始めるのではなく、お客様にとっての利便性をデザインし、社内で合意・共有することから始めるという考えです。
仮に人的リソースが不足しているのであれば、一時的には社外を活用することもスピード面から必要でしょう。ただし、将来的には人的リソースも含め、すべて自社運用できないと本当のDXにはならないと思います。
■リアル・デジタル併用で最大化
――東急エージェンシーがリテールアド・コンソーシアムのメンバーとして、ジョイントベンチャー型の「リテールアドBPO」に携わることの意味はどこにあるでしょうか。
当社にとって、クライアントであるリテール企業の成長を直接的に支えるパートナーであり続けたいとの考えに変わりはありません。しかし一方で、我々に求められているサービスの領域やスピード、クオリティーは高まり続けています。
コロナ禍によって大きく生活様式が変わっていく今のタイミングは、我々自身のビジネスモデルの転換期でもあります。その新しい取り組みの一つが、コンソーシアムの一員として「リテールアドBPO」に携わることだと考えています。
お客様は否応なくデジタル対応を迫られています。広告・販促業務におけるオンライン・オフラインの統合も必須になっており、予算をいかに効率よく使うかが問われています。
現状、小売業にとっての広告・販促手段は基本的に折込チラシなどのオフラインメディアが主で、あくまでもデジタルは補完メディアです。ただ、紙では届かないターゲットへのリーチ獲得や、商品によってはデジタルにした方がより魅力を伝えやすいケースもあります。必ずしもオンラインとオフラインが取り合うという発想ではありません。両者を組み合わせた効果の最大化を探るべきです。
コンソーシアムの強みは、専門性の高い各社がスクラムを組むことで、サービスの隙間を生じさせずに効果を高める点にあります。当社はその中で、広告会社の本業であるプランニング、クリエイティブの部分に注力し、オペレーション・運用の中核の部分をしっかりと担いたいと考えています。
――具体的に「リテールアドBPO」ではどのようなソリューションを想定していますか。
基本的には、本部、地域、店舗にわたる広告・販促運用のフルマーケティングBPOというものを想定しています。具体的には、折込、ネット、テレビなどの電波メディアを横並びに運用し、効果の最大化を目指します。
これに加えて、DXの中核になる情報基盤の設計・選定、開発、運用を支援します。詳細なサポートの中身については、お客様の事情に合わせて変わります。基本はカスタマイズしていくということです。
特徴ある強みを持った各社が集まったリテールアド・コンソーシアムにより、リテール企業にかかる広告・販促業務の負担を軽減し、さらなる成長を支えるパートナーとしての役割を果たしていきたいと思います。
株式会社東急エージェンシー 常勤顧問/調査役
1983年に東急エージェンシーに入社。営業部門を中心にクリエイティブ等スタッフ部門、メディア部門を担当。2005年執行役員、2010年取締役執行役員、2017年取締役常務執行役員、2021年6月末から現職。