topics

  • FOLLOW US
  • twitter
  • facebook

メーカー視点で小商圏やITの活用に挑む
~薬王堂・西郷孝一氏に聞く~

東北6県で323店舗(2021年4月現在)を運営するドラッグストア「薬王堂」。
取締役常務執行役員の西郷孝一氏に経営戦略や販促について話を聞いた。

―――「小商圏バラエティ型コンビニエンス、ドラッグストア」というモデルを掲げられていますが、この考え方について教えてください。

他社のドラッグストアでは10,000人商圏が一般的なモデルのようですが、薬王堂では7,000人商圏での運営を目指しています。東京のように人がいて所得が高いということであれば、広い商圏で売上が増え粗利もとれるというビジネルモデルが可能ですが、東北はなかなか人の密集地が少ないこともあって、都心、郊外に限らず売上がとれないという前提で小商圏での運営となります。このビジネスモデルを支えるのは、物流、ITなどのローコストオペレーションやチェーンストアのシンプルな運営で、売上がとれない地域であっても、低い販売管理費でしっかりやっていけるという自負があります。

―――薬王堂と他社でお客様の違いは?

立地や品揃えにもよりますが、接客や技術が求められる化粧品販売などは他社にノウハウの蓄積があるように思います。一方で、気軽に来て、食品や洗剤や日用品を買って帰る、ということを求めているお客様は薬王堂を選んでいただいています。薬王堂は、食品カテゴリーの販売割合は酒類を含めると約44%あり、ドラッグストア業界の中では高いと思います。

―――コロナによって変化はありましたか?

売上は数字上では好調ですが、私は好調だとは思っていません。お客様が買い回りを控えて、全てを食品スーパーで済ませてしまっているということを予想できていませんでした。その対策として薬王堂の一部店舗では、生鮮品の肉や野菜や果物の販売実験をしています。

―――デジタル広告や折込広告はどのような取り組みをされていますか?

今は折込広告を週に2回程度実施しています。経費節減によって減らすことも検討されていましたが、止めると売上が下がる。折込広告の効果を実感しているので今は安定的に行っています。価格戦略はESLP(Everyday Same Low Price)ですが、チラシ期間中は特売を実施することもあります。ただし、基本はお客様が高い、安いで悩むことがないよう、売価を上げたり下げたりの強弱はつけず、販促もなるべくなだらかにするという方針です。デジタルでは一般的なバナー広告は考えていません。

   ■薬王堂3月31日号 折込チラシ(B4表面)

―――デジタル広告を実施していないというのはなぜでしょうか。

デジタル広告の考え方が他社と違うかもしれません。子会社であるMedica(メディカ)の代表取締役も務めていますが、小売の店頭で得られる価値あるデータを、いかにメーカーへ還元できるかを考えています。お互いがWIN―WINになるよう、メーカーが知りたい事を提供すればリターンがあると思っています。簡単にいえば、広告の白黒をはっきりさせる取り組みです。私は花王出身なので、メーカー側の気持ちもわかります。店舗で得られるメーカーが知りたい情報を提供できると思っています。社内がデータ連携をしやすい状況というのもありますが、スピード感をもって低コストで取り組みできるのが薬王堂の強みかと思います。

―――今後デジタルで見据えていることはありますか?

最近、P!ck and(ピックアンド)というアプリをリリースしました。アプリで注文した商品を、「STORE」は店で、「DRIVE」は駐車場で受け取れるサービスです。今後、「DASH」と「OFFICE」というサービスで自宅や会社への配達に広げていく予定ですが、ラストワンマイルの配達については課題もあります。
また、4~5年前からヘルスケアチェックに取り組んでいます。ドラッグストアの取り組みというよりは、健康チェックをより身近にしていきたいという考えです。「自分の健康は自分で知る」という意識の高まりもありますので、ベンチャー企業と組んでデータを蓄積する仕組みを考えています。

―――東北の高齢化は全国よりも進んでいますが、デジタル推進への影響は?

全く心配していません。自社の電子マネーも含めたキャッシュレス率53%くらいあり、この数字は業界内ではトップクラスと考えます。もともとITやテクノロジーの情報が入りにくい環境ですが、東京発のシステムをそのまま使用するのではなく、東北のためにITやテクノロジーを考え、変えていきたいと思っています。東北の人に本当に必要な情報を私たちが整理し、お客さん一人一人に提供していきたい。これが最終的に目指しているところです。花王にいた時も市場分析を行っていました。勝てないと思ったら私は諦めますし、勝てると思ったらそこしかないと思っています。まだ薬王堂の規模は小さいので必然的にこういう考えになったというのもあるかもしれません。

西郷 孝一(さいごう・たかひと) 取締役常務執行役員経営戦略本部長。1978年、岩手県矢巾町生まれ。大学卒業後、花王で5年間勤務。その後、2012年4月に株式会社薬王堂に入社。営業企画部部長、商品部部長、業務改革部部長、経営企画部長を歴任し、現在は取締役常務執行役員経営戦略本部長として経営に携わる。2018年4月に設立した薬王堂100%子会社の「Medica」の代表取締役に就任。現在は、企業としての中長期的な戦略の立案から実行と、他業界の人材と企業とのコラボレーションを推進している。