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進化する「位置情報」の可能性
~LBMA Japan 川島邦之代表理事~

スマートフォンやWi-Fi機器、センサーなどのスマートデバイスで集めた人の動きをまとめて記録する位置情報「デバイスロケーションデータ」は、企業のマーケティングなどに幅広く活用されており、リテール業界においても販促効果を高めるデータとしてその可能性に注目が集まる。一方、個人情報として慎重な扱いを求める消費者の声が高まっていることには注意が必要だ。
データの適切な利用促進を図る業界団体「ロケーションベースド マーケティングアソシエーション(LBMA)」の日本支部「LBMA Japan」の川島邦之代表理事に、位置情報の活用に向けたポイントや、今年4月に施行された改正個人情報保護法の影響などについて聞いた。

◆詳細・膨大なデータ

スマートフォンのGPS(全地球測位システム)データなどを取得することで、様々な人の動きを分析することができるようになりました。コロナ禍で外出自粛が呼びかけられていた時期に、「今日の渋谷での人出は一か月前と比べて○○%減りました」といったニュースが伝えられたのは、位置情報を基に統計データを集めることが可能だったからです。

スマートデバイスが使われる前は、担当者がデータを取りたい場所へ実際に足を運び、通行人や車の数を目で数えていました。歩道などで簡易椅子に腰掛け、カウンターをパチパチと押している人を見たことがある方も多いのではないでしょうか。他にも、駐車場に止まっている自動車のナンバープレートの地名を調べて、店舗やイベントの商圏分析に活用していた事例もあります。デバイスロケーションデータは、こうした取り組みよりも詳細かつ膨大なデータを集めることができるので、人の動きを正確に把握するのに威力を発揮します。

◆プライバシーには最大限配慮

位置情報は、スマートフォンでアプリを使う際に「位置情報の利用を許諾しますか」といった質問に「Yes」と答えると、事業者に提供されます。「誰がどこを訪れた」という情報にはプライバシーが含まれるので、LBMA Japanではデータから個人を特定できないようにした上で利用するというガイドラインを設けています。具体的には、氏名やメールアドレス、電話番号などの情報を取得せず、統計データなどに加工してから活用したものを「デバイスロケーションデータ」として利活用するルールを定めています。

事業者は自主的な対応を進めてきましたが、これまでの個人情報保護法では、位置情報がどういった場合に個人情報に当たるのか、はっきりした定義が示されていませんでした。このため、個人情報の取り扱いに慎重な事業者は、かえって対応が難しかったとも言えます。

こうした中で、今年4月に施行された改正個人情報保護法では、個人を特定できる位置情報は「個人情報」、そうでないものは新たに定義された「個人関連情報」に当たる、という整理がされたと理解しています。LBMA Japanがガイドラインとして定義したデバイスロケーションデータは、この個人関連情報として扱うことを前提としています。個人情報、個人関連情報のどちらもセンシティブなデータであることを認識し、データ提供者からの同意をしっかり取ったり、データの取得・管理・利活用のルールをきっちり守ったりすることの重要性が改めて強調されました。

個人情報保護法の改正前後の違い。LBMA Japan提供

 

◆リテール業界への期待

これまで述べてきたように、位置情報の取り扱いはどんどん厳格になっています。アップルやグーグルなどのプラットフォーマーも対応を進めており、位置情報を集めるハードルは高くなっているのが実情です。

こうした中で、買い物客に会員登録をしてもらい独自のポイントサービスなどを提供してきた実績のあるリテールは、個人情報と位置情報をひもづけた深いデータ(この場合、位置情報は「個人情報」として取り扱われることになります)の収集や、その分析をしやすい業態だと考えています。情報を厳格に管理するのは大前提ですが、ポイントや割引きサービスを提供するという「対価」にお客さんが納得して位置情報を提供することに合意・許諾するのであれば、問題無くデータを集められるからです。

技術的な問題も改善されています。小売りの多くは屋内店舗で、GPSでは精度に限界がありました。近距離無線通信規格Bluetoothを利用した機器「ビーコン」を使っても、1~2メートルのずれが生じるため、売り場での緻密な分析は困難でした。それが近年、ビーコンや別の無線技術「ウルトラワイドバンド」の精度が10~50センチにまで向上してきています。このため、技術的には、買い物客がどの棚の前で何秒立ち止まったかといった行動解析ができるようになっています。カメラと組み合わせ、お客さんが値札を見ているのか、商品を見ているのかといった、より洗練された手法もどんどん出てくるでしょう。実証実験を繰り返し、データの活用方法が進化していくだろうと期待しています。

◆位置情報の未来

今後、機関投資家などが投資の判断に使う非伝統的な「オルタナティブデータ」として位置情報を活用する取り組みも進みそうです。

オルタナティブデータとしてよく例に挙げられるのが、米国の小売り大手ウォルマートの店舗や、電気自動車大手テスラの工場の駐車場を人工衛星で定点観測して、来店客数を把握したり、出荷台数を予測したりするというものです。他の投資家に先んじるための情報は、位置情報の人流データからも得られるはずです。株価の予測モデルに使われることがあるかもしれません。

日本では、「デジタル田園都市国家構想」が掲げられ、地方のデジタル環境整備に巨額の予算が投じられる見込みです。ドローンを使った配送や、自動運転車の制御など、様々な先端機器を活用するスマートシティーの整備に、デバイスロケーションデータが幅広く活用されることも予想されます。

多くの可能性を持つ位置情報の活用を、知見を共有しながらさらに広げていきたいと思っています。

川島邦之(かわしま・くにゆき)
コンサルティング会社「リバーアイル」代表取締役社長。位置情報を活用したIoT企業「ピンマイクロ」取締役も兼務。2020年に一般社団法人LBMA Japanを設立、代表理事を務める。米ニューヨーク州立大学プラッツバーグ校卒。東京都出身。