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Z世代の心をつかむ販促
「自分ごと」がキーワード

SNSで情報を集め、「売らんかな」の商業臭が強い広告には警戒感を隠さない――。「Z世代」と呼ばれる10代~20代の若者に向けた販売促進は、小売り業界にとって大きな課題だ。旧来の手法が通じない世代へのアプローチをどうするか、模索が続いている。

 

◆アイドルがYouTubeでPR

即席麺大手のエースコックは10月、アイドルグループAKB48のメンバー4人でつくるユニット「ゆうなぁもぎおん」を起用した看板商品「スーパーカップ1.5倍」の販促キャンペーンを実施した。購入者を対象に、オンラインイベントへの招待や、直筆サイン入りブロマイド写真のプレゼントなどを行う内容だ。

食品メーカーがアイドルや有名人とコラボした販促を行うのは珍しくない。今回のキャンペーンが特徴的なのは、ユニットの公式YouTubeチャンネルで20分超のPR動画を公開したり、メンバー自身がツイッターでキャンペーンを紹介したりと、アイドルからダイレクトにメッセージを発している点だ。

全国キャンペーンとして取り組みを進める一方で、北海道や九州などに本社を構える全国各地のスーパーやコンビニチェーン計6社と協力した特別企画も打ち出した。6社の店舗では、それぞれ独自のPOP広告や販促プレゼントを用意。「地元のお店でしか見られない」というファン心理をくすぐる仕掛けで、売り場などの写真がSNSで次々にシェアされた。エースコックによると、今回のキャンペーンでは、該当商品の販売が前年比1.6倍に伸びるなど上々の成果を収めたという。

 

「限定ブロマイド」のプレゼントなどを強調したベルク北本二ツ家店 の売り場 (エースコック提供)

営業戦略統括部の紺谷純也・営業企画課長は、「Z世代を象徴するキーワードは『多様性』。一人ひとりに向けた企画でなければ心をつかめない」と話す。「スーパーカップ」は来年、発売35周年を迎える。さらなる成長にはブランドの若返りが必須で、高校生のダンス選手権に協賛したり、若者に人気のお笑い芸人を起用したプロモーションを行ったりと、様々な手を打っている。

 

◆発信前に講習会も

アイドルを単なる広告塔にとどめず、密に連携した販促キャンペーンとして仕掛けているのは、AKB48の総合プロデューサー秋元康氏が出資するMMSマーケティング(東京都千代田区)だ。前述のエースコックの企画にも全面的に関わっている。

秋元氏が企画したグループ「ラストアイドル」(2022年5月に活動終了)を前面に立てて、スーパー「ベルク」(本社・埼玉県鶴ヶ島市)と食品メーカー大手の明治が1~2月に行ったプロテイン(たんぱく質)の栄養補助食品を対象にした販促キャンペーンでは、メンバー自身がSNSで「疲労回復のため、素早くたんぱく質を!」「おにぎりだけでは足りてないたんぱく質を補ったよ」といった発信をした。キャンペーンを始めるに当たって、事前に管理栄養士らによる講習会をラストアイドルのメンバー向けに開き、正確で説得力のあるコメントができるよう、周到な準備をして臨んだ。

キャンペーン告知のため、商品よりもアイドルを目立たせた異色の新聞折込チラシも配布した。思わぬ形で「推し」のアイドルを大扱いしたチラシを目にしてもらうという作戦が功を奏し、「店舗のサービスカウンターで譲ってもらった」「配布地域に住む家族に頼んでチラシを確保した」といったファンの報告がSNSを賑わした。MMSマーケティングは「Z世代の来店促進につなげるというチラシの新たな価値を示した」と強調する。

「ラストアイドル」を大々的に取り上げたチラシ。
(MMSマーケティング提供)

「ナショナルブランド」と呼ばれる大型ブランドの販促キャンペーンでは、テレビCMを全国で放映したり、著名人や漫画キャラなどをあしらった専用パッケージを投入したりして浸透を図るのが代表的な手法だ。これに対し、SNSなどを通じてアイドルに商品を紹介してもらう取り組みは、コストを抑えられるだけでなく準備期間も短縮でき、機動的な広告展開が可能になる。MMSマーケティングは「Z世代は自分たちが好きなアイドルやコンテンツへの熱量が高く、企画が刺されば『自分ごと』として積極的に宣伝役を担ってくれる」と説明する。

電通デジタルヤングポットが22年1月に公表した「デジタルネイティブ世代の消費・価値観調査」によると、Z世代(調査では15~25歳と設定)の63.3%が「インスタグラム、ツイッター、ティックトックのいずれかで気になった商品(の情報)などをストックしている」と回答し、36歳以上の世代よりも38.3ポイント高い比率だった。こだわりのある売り場やチラシを作り込むことでファンの関心を刺激し、喜びや驚きをSNSで拡散してもらう。そんなZ世代に向けた新たなアプローチは、今後さらに広がりそうだ。