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効果の「見える化」を図ったOOHの新たな可能性
~3社合同による実証実験の概要と今後の展望~

寄稿 株式会社東急エージェンシー
戦略事業本部 事業統括局 第1ビジネス開発部 部長 兼 新宿プロジェクト推進室
星野 一道

 

コミュニケーション活動をより効果的にするために、お客様の生活行動動線上で展開する「OOHメディア(Out Of Home=家庭外で接触する媒体)」を有効活用したい、と考えるリテール企業のご担当者は多いのではないでしょうか。お客様の帰宅動線上などで展開するOOHメディアは、自宅近くの駅などでの接触を想定しており、リテールとの親和性や、直前に接触した広告が購買行動に影響を与える「リーセンシー効果」が高いと言われています。

ただ、OOHは効果を数字で示しづらかったり、ターゲットやタイミングを絞った買い付けがしづらかったりするため、出稿を躊躇されてしまいやすいのも事実かと思います。そういった課題への対応と、OOHの新たな活用方法や販売方法の模索・検証を行うため、小田急線・京王線・東急線の私鉄3グループと合同でDX推進施策を昨年度実施したので、概要をご紹介致します。

 

◆取り組みの内容

2021年12月~2022年2月の3か月間、3路線の駅構内にあるデジタルサイネージ16媒体にWi-Fiアクセスポイントを設置して周辺通行者データを計測し、下記内容の実証実験を実施しました。

・多くのサイネージ媒体で1週間1社買い切りとしている広告販売枠を、4時間ごとに区切った週35ブロックに細分化
・広告販売枠1ブロックごとの接触可能者の数と性年代属性をデータ化し、事前段階と広告出稿配信時に推計値レポートを提供
・媒体ごとの通常価格設定ではなく、「1接触可能者あたり3円」の統一単価を設けて、ブロックごとの接触可能者数に応じた媒体料金で販売

【Wi-Fiデータ取得イメージ】

 

【実証実験販売イメージ】

この取り組みにより、以下のようなメリットが生じます。

▽事前に接触可能者数を予測したプランニングができ、定量的に何人にあてたい、という買い付けができます。
▽ターゲット属性効率を高めた出稿や、時間帯を限定した出稿が可能です。
▽4時間ごと1ブロックに小分けした枠で、少額での出稿や、駅をまたいだ効率的な出稿配分を行うことが可能です。
▽事後には実際の接触者数がレポートされ、効果を可視化できます。

 

◆事例の紹介

WEB広告等では当たり前のことでも交通OOHメディアとしては新しい取り組みで、慣れない部分や課題も多くありましたが、実証実験期間中、幅広い業種の広告主に利用して頂きました。

ある通信会社は、ターゲットである30代未満の含有率が高い駅と時間帯を狙ったブロック枠を、効率よく抽出した出稿を行いました。タクシーアプリの運営企業は、需要が高まるターミナル駅の平日夜間に出稿を限定しました。店舗業態のお客様では、複数の百貨店が催事に合わせた週の帰宅時間帯や、催事を実施している時間帯に広告を展開。雑貨流通では、新商品を発売した週の帰宅時間帯や、発売日当日の買い物時間帯である昼間に絞って広告を放映しました。外食店を展開する企業は、ターゲットの30代男性の含有率が高いブロックに絞り、限られた予算を有効活用していました。

 

◆合同実施企業のコメント

合同で実証実験を実施した小田急エージェンシー、京王エージェンシーからは、下記のコメントを得ました。
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株式会社小田急エージェンシー OOHメディア事業部
マネジャー 鎗 奈帆氏

今回の実験の有用性を実感するとともにデータをただ広告主に報告するだけでは意味がなく、計測したデータを最大限に活かすシームレスな仕組みづくりが必要と思いました。

効果測定による通行者データを反映した空枠確認、買い付け、審査、入稿、配信、アクチュアルデータのダウンロード等、広告業務を効率的に進める為のシステム連携が必須と痛感しました。コスト、各社の壁、技術的な課題等がありますが、顧客の求めるスピード、利便性、納得性、何よりも分かり易さに繋がるのであれば進めるべきです。

OOHは、公共交通機関にリアルな場所を持つという特性があります。その特性とデータを最大限活用し、顧客のセールスプロモーションを効果的に公共交通機関利用者へ届けることのできるメディアへ進化させたいと考えています。

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株式会社京王エージェンシー  交通・メディア開発事業部 京王交通メディアチーム
課長 志賀 一徳氏

コロナを契機に、広告主や代理店からはプランニング時に媒体ごとの接触者数や、掲出中のアクチュアルデータの開示をより強く求められるようになりました。また、限られた予算の中で必要な曜日や時間帯に絞って効率的に掲出することが難しいといった課題もありました。

今回、従来のOOHでの課題に対して3社での実証実験というかたちで第1歩を切りました。課題もまだまだ多いですが駅や車両などのリアルな接点という媒体特性に加え、効率的に、また効果が可視化できる販促メディアとしてOOHをご活用いただけるように取り組みを進めていこうと考えています。

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◆OOHが秘める可能性

今回の実証実験のように効果が見える化され、ターゲット生活者ベースでのプランニングとバイイングができるようになったOOHは、リテールの広告・販促を展開する際の重要なピースとなり得るのではないでしょうか。

これまで街や駅のイメージで媒体選択されていたところから、実際の広告接触可能者数や属性の実態データに基づいた、よりターゲット効率の高い出稿が可能となります。またカスタマージャーニーに沿ってあてたい時にあてることができ、OOHの場が持つ価値に加え人やオケージョンという要素を掛け合わせて、生活者への気づきや商品を買いたいという気持ちを効果的に高めることができると考えられます。

今後、OOHのみならず店内サイネージやスマホID連携が図られるようになれば、より生活行動に即した購買機会を最大化する仕組みに発展し、その効果の見える化とPDCAを実現できるようになるでしょう。