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【リテール広告の未来】消費者の「使い分け」に対応、強み伸ばす経営を~寺本高・横浜国立大教授に聞く ㊦

2020.09.17UP

ネット通販の普及が急速に進む中、小売業界では消費者のリアル店舗とネットの「使い分け」への対応が求められている。流通経済研究所などでスーパーマーケットを中心とした小売業界の研究に取り組んできた寺本高・横浜国立大教授は、それぞれの強みを伸ばす経営が生き残りのカギだと指摘する。

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――新型コロナウイルスの影響もあって、スーパーなどの小売店は折込チラシで大量に集客するということが難しくなっています。集客やにぎわいを重視する店舗のあり方が見直しを迫られ、「密」の回避と売上の確保をどう両立していくかが課題です。

 緊急事態宣言が出された当初、スーパーの集客のあり方が問題となりました。現在も最少人数での来店やソーシャルディスタンスの確保をチラシで呼びかける店舗が目立ちます。ただ、集客はやはり小売ビジネスの根幹なので、お客さんに「来ないでね」と言うのはなかなか難しいところです。

 特に都市型のスーパーでは、総菜の販売に力を入れているため、集客の多寡の影響をもろに受けます。総菜は基本的に当日買って当日消費するのが前提の商品なので、都市型店はもともと来店頻度が高くなっている。こうした店では、ただ単に来店頻度を下げるのでは、総菜販売へのダメージが大きいため、集客方法を慎重に見極める必要があると思います。

■顧客データを逆手に

 これは一つのアイデアですが、今さまざまな小売業で導入されているFSPと呼ばれる仕組みを活用し、計画的なまとめ買いの促進を図ることが有効ではないかと思います。FSPとは「Frequent Shoppers Program」の頭文字をとったマーケディング用語。ポイントを付与するカードを通じて、どの顧客がどのくらいの頻度で来店し、どのくらいの金額を購入しているかといったデータを分析して、優良顧客にはポイントなどで優遇する仕組みです。

 ただ、大抵のスーパーでは、「例えば、ひと月にどのくらいの金額を買っているか」という合計購入金額の点しか見ていません。場合によっては、1回の購入金額は少ないが、多くの頻度で来てくれる人も良いお客さんだとみなしています。

 この発想を少し変えて、あまり来なくてもたくさん買っている人を良いお客さんだとみなすのも手かと思います。金額の条件は維持しながらも、来店回数を減らした人にはボーナスポイントを出したり、優遇条件を引き上げたりすれば、計画的なまとめ買いの促進につながるのではないでしょうか。

――実際にそのような取り組みをしているチェーンがあるのですか。

 私の知る限りでは、まだ具体的な動きはありません。FSPの仕組みを持っていながらも、顧客の区分をうまくやれていないスーパーが多い。デジタルを活用した販促が叫ばれる中で、顧客のデータを有効活用できる余地はまだまだあるのではないかと思います。

■優れた生協モデル

――デジタルの活用という面では、インターネットを通じて注文・配達するネットスーパーに取り組むチェーンも増えてきていますが、まだ十分に浸透していない印象です。

 少なくとも今のビジネスモデルのままでは厳しいですね。各社のネットスーパーは、店内で従業員が商品をピックアップしていく方式ですが、このモデルを使っている以上、規模を大きくしていくのは難しいと思います。マンパワーに限界があるからです。

 従来から言われていることですが、生鮮食品の分野では生協の宅配モデルが優れています。生協の場合、基本的に1週間前に顧客が発注し、1週間後に商品を受け取るという方式が一般的です。リードタイムにきちんと余裕を持たせて、計画的なサイクルで回しているビジネスモデルなので、非常にしっかりしているんですね。これに対して、スーパーがやっている「その日に注文して、その日に受け取る」というモデルは無理が過ぎている。破綻するリスクが高いといえます。

 ネットのビジネスを本格的にやっていくためには、そのあたりのキャパシティーをどう解決していくのか真剣に考え、思い切って投資をしていかないと難しいでしょう。ネット専用のセンターを作るといった取り組みも必要になると思います。ただ、採算ベースに乗せるにはそれなりの事業規模を見込めないと投資の判断は難しい。各社が非常に悩んでいるところだと思います。

■使い分けが前提

――ネット通販や生協のような定期宅配サービスが普及し、消費者の「使い分け」も進んでいます。こうした中で、スーパーなどのリアル店舗が生き残っていくカギはどこにあると思いますか。

 消費者もすべてネットや宅配で食生活をまかなっているわけではありません。定期的に頼むものは宅配で、当用買いのものは近所のスーパーで、といった使い分けが前提となっています。小売業は、こうした消費者の姿を踏まえて自らの立ち位置を考え、どうビジネスをしていくかが重要になってきます。

 たとえば、食品スーパーの成城石井の場合、品ぞろえとしてナショナルブランド(NB)商品をほとんど扱っていません。代わりに原材料から調達して自社のセントラルキッチンで製造する自家製商品の開発に力を入れ、ワインやチーズの直輸入も行うことで他社との差別化に成功しています。このように、それぞれのスーパーの強みをはっきりさせて、メリハリを付けることも必要ではないでしょうか。

食品スーパーの成城石井はオリジナル商品の充実で差別化を図っている

総菜売り場には自家製商品が並ぶ

――消費者の賢い使い分けが今後も広がっていくのであれば、何でもそろえるフルライン型のスーパーではなく、ある程度強みに特化していった方が、小売店同士でムダな消耗戦をしなくてもすむような気がします。

 そうです。これまでスーパーマーケットの業界はお客さんに迎合しすぎて、客の求めるものを何でもそろえるような風潮がありました。これからはフルライン同士の競争にこだわらず、カテゴリーごとの強みと弱みの「緩急」が大事になると思います。

 生協の宅配でも、その週に入荷できない商品はキャンセルになることがありますが、会員もそのあたりは承知の上で利用している。便利な部分と融通がきかない部分をはっきりさせ、ある程度我慢してもらう部分もありますよ、とやっていけばいい。

――ユーザーの納得感を得ながら、いかにサービスを展開していくかがカギになりそうですね。

 そう思います。それぞれの強みを伸ばし、自社のオリジナリティーやユニークさを商品開発や売り場づくりに反映させていく小売店が、これからは強く勝ち残っていくのではないかと思います。

 

寺本 高(てらもと・たかし) 横浜国立大大学院教授。1973年生まれ。慶應義塾大商学部卒。筑波大大学院修了。博士(経営学)。流通経済研究所店頭研究開発室長、明星大学経営学部准教授を経て、2020年より現職。著書に「小売視点のブランド・コミュニケーション」「スーパーマーケットのブランド論」(いずれも千倉書房)など。